吾輩はエストレヤである。名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。
何でも同じバイクがずらりと並んでいたところという事だけは記憶している。
吾輩はここで初めて人間というものを見た。
しかもあとで聞くとそれはライダーという人間中で一番道楽な種族であったそうだ。
このライダーというのは我々を捕えてあちこち走らせ、こき使うという話である。
しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。
ただ吾輩を捕えたライダーの顔を見たのがいわゆる人間というものの見始であろう。
この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。
吾輩は捕えられたものの明けても暮れても雨ざらしの上でじっと寝て居るだけであった。
月に1、2度火を入れてもらって走ることはできたわけだが、
こき使われるというのとはよほど違った環境であった。